1. 目的
2. VBMとは
2.1. 3D-T1WIの準備
2.2. fslvbm_1_bet
: 3D-T1WIの脳頭蓋除去
2.3. fslvbm_2_template
: 被験者の脳から灰白質テンプレート画像を生成
2.4. fslvbm_3_proc
: すべての被験者の灰白質を灰白質テンプレート画像に位置合わせし、ボクセルをモジュレーション後、平滑化
2.5. randomise
:GLMと並べ替え検定(permutation test)
3. おまけ
1. 目的
- FSLを用いたVoxel-Based Morphometry: VBM
2. VBMとは
Voxel-Based Morphometry(VBM)は、脳構造解析手法の一つであり、特に脳容積を対象に解析する。
VBMは、古典的なマニュアルの脳容積計測とは異なり、自動処理によって全脳を客観的に評価することができ、現在では脳科学の分野において幅広く用いられている。
VBM解析では、次のような処理をする。
- 3D-T1WIの準備
fslvbm_1_bet
: 3D-T1WIの脳頭蓋除去fslvbm_2_template
: 被験者の脳から灰白質テンプレート画像を生成fslvbm_3_proc
: すべての被験者の灰白質を灰白質テンプレート画像に位置合わせし、ボクセルをモジュレーション後、平滑化randomise
:GLMと並べ替え検定(permutation test)
2.1. 1. 3D-T1WIの準備
各被験者の3D-T1WIを準備する。
ここでは、健常者10名(ID: Con0001~Con0010)と患者10名(ID: Pat0001~Pat0010)いることを想定する。
. ├── Con0001_T1w.nii.gz ├── Con0002_T1w.nii.gz ├── Con0003_T1w.nii.gz ... └── Pat0010_T1w.nii.gz
2.2. 2. fslvbm_1_bet
: 3D-T1WIの脳頭蓋除去
ファイルの準備ができたら、fslvbm_1_bet
コマンドを実行して脳頭蓋除去をする。3D-T1WIに首を含まない場合、-b
オプションを指定し、首を含む場合は-N
オプションを指定する。
ここでは、3D-T1WIに首を含んでいたとして、-N
オプションを指定する。
fslvbm_1_bet -N # 首を含む場合 # fslvbm_1_bet -b # 首を含まない場合
処理が完了すると「strucフォルダ」が生成され、その中に頭蓋除去後の画像が保存される。頭蓋除去後の画像は「*_brain.nii.gz」というファイル名で保存される。頭蓋除去前後の画像一覧をみるには、「struc/slicesdir/index.html」を開く。下地が頭蓋除去前の画像であり、赤い線が頭蓋除去後の画像である。
2.3. 3. fslvbm_2_template
: 被験者の脳から灰白質テンプレート画像を生成
次に、脳の解剖学的標準化で用いるターゲット画像(標準脳)を、頭蓋除去済みの被験者脳から生成する。
まず最初に、標準脳を生成するために用いる被験者の脳画像リスト(template_list)を作成する。このとき、バイアスがかからないように健常者と患者の人数が同じになるようにリストを作る。
ここでは、健常者10名(ID: Con0001~Con0010)と患者10名(ID: Pat0001~Pat0010)の合計20名を「template_list」に記載した。
cat template_list
Con0001_T1w.nii.gz
Con0001_T1w.nii.gz
Con0001_T1w.nii.gz
...
Pat0010_T1w.nii.gz
template_listは、3D-T1WI(*_T1w.nii.gz)と同じ階層に配置する。
. ├── template_list # ここに配置 ├── Con0001_T1w.nii.gz ├── Con0002_T1w.nii.gz ├── Con0003_T1w.nii.gz ... └── Pat0010_T1w.nii.gz
標準脳を生成するために用いる被験者の脳画像リスト(template_list)が準備できたら、頭蓋除去済みの脳画像を、灰白質・白質・脳脊髄液にセグメントする。次に、全ての被験者の灰白質(*_struc_GM.nii.gz)を元々ある灰白質標準脳(ICBM-152)にアフィン変換で位置合わせし、平均化する。このようにして得られた平均灰白質画像を、x軸に対して反転し再度平均化して、左右対称の平均灰白質画像(template_GM_init.nii.gz)を生成する。既に作成した「template_list」に記載されている灰白質画像を、先ほど作成した平均灰白質画像に位置合わせをし、平均化、さらに左右反転後に再度平均化する。最後に、元々ある灰白質標準脳(ICBM-152)に非線形位置合わせをし、2x2x2 mm^3の灰白質テンプレートを標準空間に生成する。
fslvbm_2_template
コマンドにはオプションがあり、各被験者の灰白質画像を元々ある灰白質標準脳(ICBM-152)に位置合わせする際に、アフィン変換を用いる場合は-a
オプションを、非線形変換を用いる場合は-n
オプションを指定する。
ここでは、fslvbm_2_template
に-a
オプションを指定して実行する。
fslvbm_2_template -a # Affine registration # fslvbm_2_template -n # non-linear registration
処理が完了するとstrucフォルダに灰白質テンプレート(template_GM_4D.nii.gz)が生成される。
2.4. fslvbm_3_proc
: すべての被験者の灰白質を灰白質テンプレート画像に位置合わせし、ボクセルをモジュレーション後、平滑化
非線形変換を用いた位置合わせで、各被験者の灰白質画像を作成した灰白質テンプレート(template_GM_4D.nii.gz)に合わせ、statsフォルダに全被験者の灰白質4D画像を作る(GM_merg.nii.gz)。この時、被験者ごとの灰白質容積の違いを反映できるよう、非線形変換の際に収縮・拡大された度合いに応じて、灰白質画像のボクセル値を補正(モジュレーション)する。実際には、warp fieldのヤコビアンを灰白質画像の各ボクセルにかけ合わせる。その後、モジュレーションされた画像(GM_mod_merg.nii.gz)はσ=2, 3, 4mm (およそFWHM=2×2.3=4.6mmからFWHM=9mm)のガウシアンフィルタで平滑化する(GM_mod_merg_s[2,3,4].nii.gz)。
fslvbm_3_proc
以下は、モジュレーションした灰白質画像(GM_mod_merg.nii.gz)とσ=3mmのガウシアンフィルタで平滑化した灰白質画像(GM_mod_merg_s3.nii.gz)である。
2.5. randomise
:GLMと並べ替え検定(permutation test)
ガウシアンフィルタで平滑化した灰白質画像を用いて、健常群と患者群の群間比較をする。
まず、GLMのデザインマトリックス(計画行列)とコントラストを設定する。
今回は、健常者10名(ID: Con0001~Con0010)と患者10名(ID: Pat0001~Pat0010)のデータがある。すべての被験者の3D-T1WIをls
コマンドでみると、先に健常者10名の3D-T1WI、次に患者10名の3D-T1WIが並んでいることが分かる。
ls |grep nii
Con0001_T1w.nii.gz
Con0002_T1w.nii.gz
Con0003_T1w.nii.gz
...
Pat0010_T1w.nii.gz
次に、GLMのデザインマトリックス(計画行列)とコントラストを決める設定ファイルを生成する。design_ttest2 <出力ファイル> <健常者数> <患者数>
でコマンドを実行。
design_ttest2 stats/design 10 10
statsフォルダに、デザインマトリックス(design.mat)とコントラスト(design.con)が生成される。
デザインマトリックス(design.mat)の中身を確認。
/Matrixの一列目は健常者データであるかどうか、二列目は患者データであるかを0, 1で表している。行の順番は、被験者ファイルの順番(昇順)に対応する。したがって、これらは対応があるようにしておかなければならない。
cat stats/design.mat
/NumWaves 2
/NumPoints 20
/PPheights 1 1
/Matrix
1 0
1 0
1 0
1 0
1 0
1 0
1 0
1 0
1 0
1 0
0 1
0 1
0 1
0 1
0 1
0 1
0 1
0 1
0 1
0 1
コントラスト(design.con)の中身を確認してみる。
/Matrix一列目は健常者の偏回帰係数、二列目は患者の偏回帰係数に対するもので、行は別々のコントラストである。この場合、一行目は健常者>患者の検定、二行目は健常者<患者の検定に相当する。
cat stats/design.con
/NumWaves 2
/NumContrasts 2
/PPheights 1 1
/Matrix
1 -1
-1 1
デザインマトリックス(計画行列)とコントラストの確認ができたら、randomise
コマンド使ってGLMと並べ替え検定(permutation test)を実行する。
randomise
コマンドの各オプションは、次の通り。
- -i:入力画像
- -m:マスク画像
- -o :出力画像
- -o :デザインマトリックス
- -o :デザインコントラスト
- -n:並べ替え検定の数
- –T2:2D最適化を用いたTFCE
- -x:voxel-wiseのcorrected P値マップ
- –uncorrp:un-corrected P値マップ
- -R:統計値マップ
fsleyes $FSLDIR/data/standard/MNI152_T1_2mm \ stats/fslvbm_tfce_corrp_tstat1 \ -cm Red-Yellow -dr 0.95,1
次のようなファイルが、生成される。
TFCEを用いた”健常群>患者群”の検定で、FWE補正をされたP値マップ(fslvbm_tfce_corrp_tstat1.nii.gz)を確認する。ここで、得られたP値マップは1-P値のマップであることに注意する。つまり、P<.05を有意とするのであれば、P値マップで0.95-1.00の値を見ればよい。
fsleyes $FSLDIR/data/standard/MNI152_T1_2mm \ stats/fslvbm_tfce_corrp_tstat1 -cm Red-Yellow
3. おまけ
検定数が多い場合、有意差があったかどうかをすべて確認するのは大変である。そこで、一目で有意差があるかどうかを判断できるように、各検定ごとのP値マップの最大値を自動計測し、テキスト(corrected_P_report.txt)としてまとめる。
for PMAP in $(ls stats/ | grep tfce_corrp); do PMAX=$(fslstats stats/${PMAP} -R | cut -d " " -f2) echo ${PMAP} >>stats/tmp1.txt echo ${PMAX} >>stats/tmp2.txt done paste stats/tmp* >stats/tmp_corrected_P_report.txt echo -e "$(cat stats/tmp_corrected_P_report.txt)\n\n\n$(cat stats/tmp_corrected_P_report.txt | sort -r -n -k 2)" \ >stats/corrected_P_report.txt rm stats/tmp*
上のコマンドを実行すると、statsフォルダに各検定とそのP値マップの最大値が記された「corrected_P_report.txt」が出力される。
検定結果を、ファイル名でソート(上段)したものと、P値でソートしたもの(下段)に分けて保存している。
cat stats/corrected_P_report.txt
fslvbm_tfce_corrp_tstat1.nii.gz 0.982391
fslvbm_tfce_corrp_tstat2.nii.gz 0.993181
fslvbm_tfce_corrp_tstat2.nii.gz 0.993181
fslvbm_tfce_corrp_tstat1.nii.gz 0.982391
ABiS講習会でお世話になっています、浜松医大の平石です。
(1)誤植?
2.3. 3. fslvbm_2_template: 被験者の脳から灰白質テンプレート画像を生成
のところで、「標準脳を生成するために用いる被験者の脳画像リスト(template_list.nii.gz)が準備できた」という文章は、流れから判断すると、リストは拡張子無し(template_list)が正しいでしょうか?
(2)テンプレート作成時の注意点
テンプレート作成では健常者と患者の人数が同じになるようにリストを作成、とありますが、例えば、参加者数が12名と10名と少ない場合あまり削りたくないのですが、そういう場合はどのようにして、参加者を抽出すべきでしょうか。
お時間のある時に、教えて頂ければ幸いです。
平石先生
返信が遅くなりまして申し訳ございません。
>(1)誤植?
こちらは、誤植でした。ご指摘いただきましてありがとうございます!
>(2)テンプレート作成時の注意点
そのような場合は、全員分をテンプレート作成に使用してもよいと思います。
ただ、テンプレート作成の際には、以下のことをするとうまく位置合わせができず、統計結果もおかしくなることがあることを頭に入れておいていただけますと幸いです。
・20代の被験者で作成したテンプレートに脳萎縮がだいぶ進行している80代の脳を位置合わせするケース
・成人で作成したテンプレート脳に小児の脳を位置合わせするケース
・脳梗塞患者のような脳損傷が激しい被験者を対象としてテンプレートを作成する場合
・など、脳形態が大きく異なる者同士の位置合わせ場合
とはいえ、ほとんどの論文はFSLやSPMが既に用意した標準脳(テンプレート脳)に個人脳を位置合わせをし、統計しているのがスタンダードな状況です。ところで、このテンプレート脳は、どのような背景のもと作成されたものでしょうか?自身のデータセットに合ったテンプレート脳であろうか?しっかりと位置合わせができるであろうか?ということを頭に入れながら、解析していくともしかしたらいつか、結果がおかしくなったときにこれは、テンプレート脳と個人脳との脳形態の乖離によって引き起こされるミスレジストレーションが原因だ!と気づけるかもしれません。
順天堂大学放射線診断学講座
斎藤
斎藤先生
早々の返信、ありがとうございます。
既存のテンプレートをどこまで信じて良いのか疑問に思うこともありましたので、妄信せず、データをこまめにチェックすることを忘れずにやってみたいと思います。
以下、もう一つ教えて頂ければと思います。
首から上の脳画像データ24例をまとめて fslvbm_1_bet -N をやってみたのですが、そのうち数例で首や舌のあたりまで拾ってしまい、うまく除去が出来ませんでした。
うまく除去できなかったものに対してfslvbm_1_bet -Nを再度個別にやるのが良いのか、FSLを用いた頭蓋除去 ~Skull-stripping~(Software/Command: FSL/bet)のbetコマンドをやるのが良いのか、何かおすすめの方法はありますでしょうか。
平石先生
BETによるSkull-strippingのミスはよくあることです。ご自身でSkull-stripしたの脳を用意し、ファイル名を同じにして保存した後に、“`fslvbm_2_template“`を実行してよいと思います。
個人的には、FreeSurferを用いたSkull-strippingが大好きです。
https://www.nemotos.net/?p=4567
順天堂大学放射線診断学講座
斎藤