脳画像解析のためのMRIの概要

目次


1. 目的
2. MRI理論
3. 構造的画像(structural MRI: sMRI)
4. 機能的画像(functional MRI: fMRI)
5. 拡散画像(diffusion MRI: dMRI)
6. 参考文献


1. 目的

  • 脳画像解析に、必要なMRI知識を簡単に理解

2. MRI理論

 MRIは、水素原子核(1H)の原子核磁気モーメントを計測対象としている。MRIで得られる信号は、原子核磁気モーメント密度のみならず、縦緩和時間・横緩和時間・流速分布・拡散係数・磁化率など、脳あるいは身体組織が持つ多数の因子(内的因子)によって左右される. 特定の内的因子は、Radio Frequency(RF)パルスと磁場勾配の強度やタイミングを変化させて、印加することにより強調される。


図 スピンエコー(SE)法のパルスシーケンス図

MRI信号Sは、次式で示される。

 ここで、Kは比例定数、f(v)は流速分布関数、ρは原子核密度、TEはエコー時間(echo time: TE)、TRは繰り返し時間(repetition time: TR)、T1は縦磁化の回復、T2は横磁化の減衰を示す指標(時定数)である。

 この式から、ρが大きく、T1が短く、T2が長いほど信号が高くなることが分かる。また、TRを短くしてT1の影響を強調し、TEを短くしてT2の影響を小さくすれば、T1強調像(T1-weighted image: T1WI)になる。逆に、TRを長くしてT1の影響を小さくし、TEを長くしてT2の影響を強調すれば、T2強調像(T2-weighted image: T2WI)になる。TRを長く、TEを短くした場合には、T1T2の影響が小さくなるので、プロトン(1H)密度を強調したプロトン密度強調像(proton density-weighted image: PDWI)となる。

 一般に、T1WIではTR < 500ms、TE < 20ms、T2WIでは1500ms < TR < 3000ms、60ms < TE < 120ms、PDWIでは1500ms < TR < 3000ms、20ms < TE < 40ms程度に設定する。

3. 構造的画像(structural MRI: sMRI)

 MRIを使った脳構造解析では、構造的画像としてT1強調像(T1 weighted image: T1WI)がしばし用いられる。T1WIは, 組織間の縦緩和時間の差を利用してコントラストをつけた画像であり、大脳組織の中で縦緩和時間が最も短い白質は高信号で白く、縦緩和時間が比較的長い灰白質は低信号で灰色に、縦緩和時間が最も長い脳脊髄液はほぼ無信号で黒くうつる。逆にT2WIでは、横緩和時間が短い白質が低信号で灰色に、横緩和時間が長い灰白質が高信号で白っぽく、横緩和時間が最も長い脳脊髄液は最も高信号で白くうつる。

 3D-T1WIは2D-T1WIと比べて組織コントラストに優れ、高解像度であり、正確な定量が要求される脳画像解析で広く用いられる [1]。3D-T2WIも用いて解析する場合もある。


図 頭部T1WI/T2WI

4. 機能的画像(functional MRI: fMRI)

 視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚といった五感や運動さらには認知的な刺激を受けると、脳には機能局在があるため、それぞれ機能を司る脳領域が活動する。脳神経活動によって脳の酸素消費量が上がるため、オキシヘモグロビン(反磁性体)が減り、デオキシヘモグロビン(常磁性)が増加する。赤血球のデオキシヘモグロビンは、MRI装置の静磁場にさらされているため静磁場と同方向に磁化され、磁場勾配を形成し磁化率効果によって信号を低下させる。一方で、酸素を供給するために局所脳血流は増加しオキシヘモグロビンも増加する。オキシヘモグロビンは、静磁場に対して逆方向に磁化されデオキシヘモグロビンと同様に磁場を不均にする性質を持つがその大きさはMRI装置に要求されている静磁場の均一性の誤差範囲内(数百万分の一)であるため、オキシヘモグロビンによる影響はほぼ無視できる。実際には、賦活部では酸素消費以上に局所脳血流が増加し、単位体積あたりのデオキシヘモグロビン量が低下するため、信号は上昇する。このようにデオキシヘモグロビンが常磁性であることを利用した脳の機能的MRI(functional MRI: fMRI)をボールド(blood oxygenation level dependent: BOLD)法という [2-4]。このBOLD法の原理を模式図にしたものは下図である。


図 BOLD法の原理模式図

 fMRI撮像では、特定のタスクを与えて特定の中枢を刺激する。例えば、文章を提示し黙読させて視覚中枢や言語中枢を刺激する。このタスクを一定時間し、一定時間休み(レスト)、また一定時間タスクと何度も繰り返していき、その間連続して信号を取得し続ける。そして、タスク(賦活時)とレスト(安静時)の信号強度差がタスクでの賦活によるBOLDの信号となる。このように脳の機能を反映させたMR画像が機能的画像である。


図 fMRI撮像におけるブロックデザインの例

 脳は一つのネットワークであり、機能の異なる多数の領域が存在し、お互い情報のやり取りをしている。そのネットワークには解剖学的にも機能的にも高度に組織化され、自己一貫性の維持や環境の変化への対応を可能にしている。解剖学的に離れた脳領域間の神経活動パターンの類似程度を機能的結合(functional connectivity: FC)と呼ぶ。この機能的結合を明らかにすることにより、脳のネットワーク的性質を定量化し、検討することが可能となった。

 機能的結合は、fMRI撮像時に記録されたfMRI信号(BOLDの信号)の時系列変化の相関程度として算出される。具体的には、解剖学的知識を基に定めた複数のボクセルからなる関心領域(region of interest: ROI)におけるfMRI信号の平均時系列R(t)を算出し、その時系列データから各ROI間のピアソン積率相関係数rを推定する。例えば、脳神経活動を反映したfMRI信号は、機能的に関連した領域において信号の変動が一致した挙動を示すため、高い相関係数を示す。i番目のROIとj番目のROIそれぞれにおけるfMRI信号の平均時系列RiRjのピアソン積率相関係数r(i, j)は以下の式で求められる。

 ROIとしてa,b,c,dの4つの脳領域が存在した場合、それぞれでのfMRI信号の平均時系列が下図のようになったとする。脳領域(a)と脳領域(b)の波形は極性も含めて似ており、順相関している。脳領域(a)と脳領域(c)間では波形は似ているが極性が逆であり、逆相関している。一方、脳領域(a)と脳領域(d)は波形が異なっており無相関である。これらの脳領域におけるfMRI信号の平均時系列データをもとに脳領域間の相関係数を計算すると下図のような相関係数行列になる。白は無相関、赤は順相関、青は逆相関を示している。順相関である脳領域(a)と脳領域(b)との相関係数は最も高く、機能的結合が最も高くなる。一方、逆相関であったであった脳領域(a)と脳領域(c)間では抑制関係となる。また、無相関であった脳領域(a)と脳領域(d)は弱い結合であることがわかる。


図 機能的結合の計算過程

5. 拡散画像(diffusion MRI: dMRI)

 拡散MRIは、大脳白質・灰白質の可視化や定量化において、臨床・研究の場で広く用いられている。他のモダリティや従来のMRI撮像では、とらえることができなかった大脳白質・灰白質の微細構造を、拡散MRIではとらえられるということで注目が集まる。

 拡散MRIとは、単一の拡散強調像(diffusion-weighted imaging: DWI)および異なる撮像パラメータによるDWI群の組み合わせの総称であり、代表的な拡散テンソルイメージング(diffusion tensor imaging: DTI)以外にも様々な拡散イメージングが存在する [5]。

拡散MRIの詳細については、広島市立大学大学院情報科学研究科の増谷 佳孝先生の資料を参考にするとよい。

増谷佳孝. “拡散 MRI 解析における数理的基礎と応用.” 医用画像情報学会雑誌 33.2 (2016): 22-27.


図 拡散MRI解析

6. 参考文献

  1. Wang, J., L. He, H. Zheng, et al.: Optimizing the magnetization-prepared rapid gradient-echo (MP-RAGE) sequence, PloS one, 9(5): e96899, 2014.
  2. Ogawa, S., T. M. Lee, A. S. Nayak, et al.: Oxygenation‐sensitive contrast in magnetic resonance image of rodent brain at high magnetic fields, Magnetic resonance in medicine, 14(1): 68-78, 1990.
  3. Ogawa, S., T.-M. Lee, A. R. Kay, et al.: Brain magnetic resonance imaging with contrast dependent on blood oxygenation, proceedings of the National Academy of Sciences, 87(24): 9868-9872, 1990.
  4. Ogawa, S., D. W. Tank, R. Menon, et al.: Intrinsic signal changes accompanying sensory stimulation: functional brain mapping with magnetic resonance imaging, proceedings of the National Academy of Sciences, 89(13): 5951-5955, 1992.
  5. 増谷佳孝. “拡散 MRI 解析における数理的基礎と応用.” 医用画像情報学会雑誌 33.2 (2016): 22-27.

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