ある方から、「脳画像解析の他に心理検査と認知機能検査をやっているんだけれども、それらの検定を行う際は多重比較補正はしなくていいのでしょうか?」という質問をいただきました。
私がいつもいろいろ教わっている統計の専門家の佐賀大学の川口淳先生にお聞きしたところ、とてもわかりやすい説明をいただきました。川口先生の許可を得ましたので公開させていただきます。
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多重比較は複数の帰無仮説の集まり (family;族) ですので、それらを独立に扱うか、もしくは family として扱うかによって、
多重補正が必要かどうか変わり、後者が補正が必要になります。
5教科 (英語、数学、国語、理科、社会) の例を使いますと、
2クラスの違いを5教科それぞれで比較する (結論もそれぞれで完結する) 場合は、
独立な比較であるので補正不要です (帰無仮説は各教科の点数がそれぞれで等しい)。
結論は例えば、英語は2クラスで異なった、数学は2クラスで異なるとは言えなかった、国語は…、
と各科目ごとになります。
5教科を総合的に比較する (帰無仮説は各教科の点数がそれぞれで等しい、の集合を考えている) ことを考える場合は
補正が必要になります。帰無仮説棄却の際の結論は2クラスで点数は異なり、異なる科目はXXと〇〇だった、となります。
脳画像で考える場合もボクセルごとに結論を出すのであれば補正は不要ですが、
そうではなくて脳全体の family で結論を出す (帰無仮説はボクセル単位の集合) ので、
ボクセルごとでの検定を補正する必要があります。
脳全体の解析を2つの表現型で行う場合は、それぞれ独立な解析ならばボクセルに対する補正だけで良く、
表現型に対する多重補正は不要です。
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これまで私は「多重検定は、P値が2回以上計算されたかどうかでその有無を判断できる」との
原則で多重比較の必要性を判断してきましたが、川口先生の上記の解説は、それに加えて、
「その帰無仮説は独立ですか?それともfamily(族)に属していますか?」ということを考えるならば
よりすっきりするということがわかりました。
すっきりしたので共有します。
根本先生 解説ありがとうございました
これを最後に 次回からはCONNの記事からコメントいたします
申し訳ありませんでした
今後ともよろしくお願いいたします
根本先生
お忙しいところ、誠に有難うございます。わからないことが、解決できないので、悩んでおりましたが、先生のおかげで、元気にになりました。今後ともよろしくお願いいたします。
これまでのコメントを一度削除させていただいて、改めて解説してみました。このような感じで大丈夫か確認していただけますか?
日本大学松戸歯学部 有床義歯補綴学 石井智浩 です
connを用いてfMRIによる脳機能結合の解析を行い始めたところです。初歩的な質問で恐縮なのですが、connでROI to ROIの機能結合を行って、結果を図に示したときに、TargetのROIが青と赤で示され、これが、正と負の相関であることはわかるのですが、SeedとROIのconnectionの線の色が、赤と青に区別されている意味がわかりません。ご教授していただけると幸いです。お忙しいところ誠に申し訳ありませんが、どうかよろしくお願いいたします。
石井先生
自分でいろいろ探ってみて、質問の意図がよくわかりましたので、混乱しないようにこれまでのコメントを一度削除させていただきます。
まず、知りたい結果は以下のような場合ですね。
赤い点と青い点があり、そして、赤い線と青い線があるわけです。
結論から言うと、
点:これは検定結果のEffect sizeを示しています。(connectivityではなく、検定結果を反映しています)
線:connectivityの絶対値が一番大きいものを示しています。
これを理解するうえで、一番左下の脳の2つの点(青と赤の点)に着目してみます。
まず、青い点をクリックしてみてください。
そうすると、点の上に棒グラフが表示されます。
そうしたら、画面の下の方にある “plot effects” をクリックしてみてください。
そうすると、以下のような図が出力されます。ここでは、年齢との相関をみていますので、この領域において、Effect sizeが-0.06弱ということがわかります。
続いて、plot effects の右側にある “plot values” をクリックしてみてください。
この例では、全体的には負なのですが、ひとつだけ +0.77のものがあり、それが一番大きいので、線は赤色になっています。
次に、その右側にある赤色の点をクリックしてみます。
そして、先ほどと同様にplot effectsを押します。
今回はeffect sizeが0.02よりちょっと大きいぐらいということがわかります。
(とりあえず説明のためにp値をものすごくゆるめているので値はあまり気にしないでください)
そして、plot valuesをクリックします。
そうすると、絶対値が大きいものは、-0.42となります。なので、青線です。
ということで繰り返しになりますが、
点:検定結果のEffect sizeで、正ならば赤、負ならば青となります。
線:各被験者のconnectivityの値で絶対値が一番大きいものを反映し、正ならば赤、負ならば青となります。
これでいかがでしょうか?
根本清貴
日本大学松戸歯学部 有床義歯補綴学 石井智浩 です
前回は丁寧に解説していただき誠にありがとうございました。また、最新バージョンのCONNの解説とても参考になります。
さて、また、わからないことができましたので、質問させていただきたく、よろしくお願いいたします。
CONNを使用して、2つのコンディションのFCを検討する場合です。AとBというコンディションがあって、A>Bというコントラストをつけて、FCを計算した場合、ROI to ROIの解析では、SeedとなるROIと他のROIとのFCについて、BよりもAの方がより大きな相関係数(強いFC)を示すROI to ROIが結果としてでてくると理解しています。相関係数には正と負がありますので、TableにでてくるROIにはβ値とt値には、正と負の値があります。今度は、コントラストを逆にしてB>Aにすると、結果は正と負が逆になります。AよりもBの方がより大きな相関係数(強いFC)を示す結果であれば、正と負が逆になる結果ではなく、ROIの場所が変わってしかるべきかと考えますが、私の最初の解釈が間違っているのでしょうか。ご教授していただけると幸いです。お忙しいところ誠に申し訳ありませんが、どうかよろしくお願いいたします。
石井先生
seed ROI と target ROI の FC が
コンディションA では、 0.8
コンディションB では、 0.3
だったとします。
A > B では、 帰無仮説は “A=B” すなわち “A – B = 0” であり、対立仮説が “A – B > 0” となります。
そして、今の場合、0.8 – 0.3 = 0.5 となり、0.5が統計学的に有意かどうかが検定されます。
B > A は、シンプルに “B – A = 0.3 – 0.8 = -0.5” が検定されるだけです。
なので、正負が逆転するだけです。
帰無仮説がベースにあり、それに対する対立仮説の表現の仕方だけです。
これで説明になりますでしょうか?
なお、この記事は多重比較の記事なので、よろしかったら、今後、別のCONNに対するご質問は、該当するCONNの記事に対してしていただけたら幸いです。
根本清貴